— 空間も、空気も、暮らしも、つながるように —
最初から、完成形が見えていたわけではありません。むしろ、分からないまま進むことを許した家づくりでした。
どんな外観がいいのか。どんな間取りが正解なのか。どこまで性能を求めるべきなのか。話し合いは、何度も立ち止まりました。むしろ、「分からない時間」のほうが長かったかもしれません。それでも、この家は前に進みました。完成形を無理に想像しすぎなかったからです。
ご相談の最初、ご家族が一番悩まれていたのは、「何を基準に決めればいいのか分からない」という点でした。間取りを見れば見るほど、
どれも良さそうで、どれも決めきれない。性能の話を聞けば聞くほど、どこまで必要なのか判断がつかない。早く決めないといけない気もする。でも、納得できないまま進むのは怖い。「完成形を想像しようとしても、 正解が見えなくなっていく感じでした」そんな言葉から、家づくりは始まりました。
私たちが最初にお伝えしたのは、「今、決めなくていいことがある」ということでした。完成形を先に決めようとすると、かえって判断を誤ることがあります。
この家では、空間を壁で区切ることも、間取りを平面的に固定することもしませんでした。代わりに選んだのは、スキップフロアによる立体的な構成。上下に少しずつズレた床が、視線と気配をやわらかくつなぎ、家族それぞれの居場所を自然につくっていきます。「仕切らない」のではなく、暮らしが重なり合う余白を残す。その判断が、この住まいの骨格になっています。
空間だけでなく、空気も家じゅうがつながるように設計しました。スキップフロアと一体で考えたのは、暖気が家全体をめぐる流れ。一部屋ずつ暖めるのではなく、家そのものをひとつの空間として整えることで、冬でも温度差が少なく、暖房光熱費を抑えた暮らしが可能になっています。「寒い場所をつくらない」その考え方が、日々の心地よさと、無理のないエネルギー消費につながっています。
屋根には、5.4kWの太陽光パネルを搭載しました。特別なことをしたかったわけではありません。毎日の暮らしの中で、「使うエネルギーを、できるだけ自分たちでまかなう」という、自然な判断です。ZEH住宅として、実質的な光熱費はほとんどかからない暮らし。それは数字の話というより、これから先の社会や、子どもたちの未来を見据えた選択でもありました。

この間取りに決めたのは、ご家族全員が「これなら、無理なく暮らせる」と自然に口にした瞬間でした。
完成形を目指したのではなく、暮らしの感覚を確かめながら進んだ結果、この形に落ち着いています。

ダイニング、キッチン、階段。それぞれの役割を決めすぎず、暮らしの動きに合わせて関係が育っていくように整えました。

この場所も、最初から用途を決めていたわけではありません。仕事になる日もあれば、子どもの居場所になる日もある。暮らしに合わせて役割が変わる余白を、あらかじめ残しています。
完成形を急がなかったからこそ、暮らしに無理のない形に辿り着きました。
決めきらない勇気が、結果的に、いちばん確かな選択になることもあります。