図面を描く前に、暮らしの輪郭を言葉にするところから始まりました。
間取りも、広さも、「これが正解」と言えるものが見つからないまま、何度も迷い、立ち止まりながら進みました。私たちは、
その迷いを急いで終わらせることをしませんでした。なぜなら、その時間こそが、後から変えられない暮らしの土台になると考えたからです。
ご相談に来られた当初、ご家族が抱えていたのは、とても正直な迷いでした。
・どのくらいの広さが、本当に必要なのか分からない
・平屋か二階建てか、決めきれない
・予算を優先すると、暮らしが窮屈になりそうで不安
・性能や仕様を比べるほど、何が大事か分からなくなる
「間取りを決めれば前に進める」そう言われるたびに、かえって不安が増していったそうです。“決められない自分たちが悪いのかもしれない”そんな気持ちを抱えながら、時間だけが過ぎていきました。
私たちが最初にお伝えしたのは、「今日は、間取りを決めなくて大丈夫です」という言葉でした。暮らし方が整理されないまま図面だけを先に固めても、後から必ず違和感が残る。だからこの家では、
・すぐに一案に絞らない
・可能性をいくつか残したまま進める
・判断を急がせない
という進め方を選びました。
家族構成、生活リズム、これから先の変化まで一緒に想像しながら、「何を決めないか」を整理していったのです。そして、判断が必要な場面では、設計者として責任を引き受ける。その役割を、私たちが担いました。この住まいは、床下エアコンを採用しています。1階は廊下も洗面も玄関も帰ってきて玄関ドアを開けた瞬間から、空気が違うと感じられる暖かさです。

床下エアコンで、1階のどこに立っても、床が冷たくありません。

部屋ごとの暖房ではなく、家全体をひとつの空間として考えました。

暖房を、意識しなくていい家を目指しました。

図面の正しさより、暮らしの違和感がないかを、何度も確かめました。

暖かさは、数値ではなく、日常の動作の中で感じるものです。

冬でも、床に手をついても冷たくない。それが、この家では特別ではありません。

すぐに決めなかった時間が、こうした細部の納まりをつくりました。

正解を探すより、納得できるかどうかを大切にしました。
この間取りに決めたのは、ご家族全員が「これなら暮らせる」と言えた瞬間でした。図面上の正解ではなく、日常を想像したときに、無理がないと感じられたこと。それが、この家の間取りを決めた唯一の理由です。さらに今回、お施主様は建築士の資格をお持ちで、設計にも参加されました。だからこそ「なんとなく決める」を避け、図面の理屈と、暮らしの実感の両方を確かめながら、納得を積み重ねていきました。
正解の間取りは、図面の中ではなく、暮らしの中で見えてきます。
決めきれないのは、迷っているからではなく、ちゃんと考えようとしている証拠です。