「急いで決めなかった」家づくり

決めることよりも、決めない時間のほうが、ずっと長かった家づくりでした。

間取りも、素材も、性能も。どれも「これでいい」と言い切れないまま、何度も立ち止まりながら、少しずつ前に進みました。急がなかった時間。すぐに決めなかった判断。その積み重ねこそが、この住まいのいちばん大切な土台になっています。

ご相談に来られた当初、ご家族が迷っていたのは、ひとつのことではありませんでした。
・この広さで、本当に足りるのか
・外から見て小さく感じないか
・冬、床が冷たくならない暮らしはできるのか
・性能を上げすぎて、暮らしが窮屈にならないか
・「今」だけでなく、10年後も後悔しないか
他社では、「この中から選んでください」「多くの人は、これに決めています」そんな言葉に、どうしても違和感が残ったそうです。数字や仕様は示されるけれど、実際に住んだときの感覚が、想像できなかった。それが、いちばんの不安でした。

私たちは、その場で答えを出すことをしませんでした。
・決めきれない選択肢は、無理に絞らない
・判断できない理由を、言葉にして整理する
・「今は決めなくていいこと」と
 「今、決めるべきこと」を分ける暮らし方が見えないまま決める間取りも、体感が伴わない性能の話も、すべて一度、保留にしました。設計とは、図面を描くことではありません。迷いの理由を一緒にほどき、判断の重さを、設計者が引き受けること。この家づくりも、そこから始まりました。


外からは想像できない、面積以上の広がりを感じるリビング。

この間取りに決めたのは、「こう使う」と決めすぎない選択をしたからでした。畳で過ごす日も、リビングと一体で使う日も、どちらも無理なく受け止められる。面積以上に広く感じるのは、部屋を増やしたからではありません。視線と居場所が、自然につながる構成にしたからです。「これなら、暮らしながら考えられる」そう感じられた瞬間でした。


部屋を増やさず、視線の抜けで広さをつくる設計です。

外から見ると、とてもコンパクトな家に見えます。けれど中に入ると、数字で想像していたより、ずっと広く感じる。視線が抜け、天井の高さに緩急があり、家の中にいくつもの“居場所”がある。広さを足さずに、広さを感じる。この家の設計で、大切にした考え方です。


光が奥まで届くことで、空間に時間と余裕が生まれます。

冬の朝、スリッパを探さなくなったそうです。床下エアコンで家全体をやさしく暖め、足元から冷えを感じにくい環境をつくりました。
「暖房している感じがしないのに、寒くない」そんな言葉が、いちばん正確な説明かもしれません。性能を主張するためではなく、暮らしの中で、意識しなくていいことそれを目指しました。


床下エアコンで、冬でも足元が冷たくならない暮らし。

使い方を決めきらない余白が、暮らしの変化を受け止めます。

この場所に、はじめから明確な使い道はありません。子どもが小さい今も、その先の暮らしも、住みながら決めていく。余白を残すことも、急いで決めなかった、大切な判断のひとつです。

家づくりに、同じ答えはありません。けれど、急がず、納得を積み重ねる進め方は選べます。

もし今、「まだ決めきれない」と感じているなら、その状態のままで大丈夫です。