― コロナ禍の只中で、判断を急がなかった家づくり ―
この家の計画は、迷いながら進むことが前提でした。
世の中が大きく変わり始めたコロナ禍の真っ最中。先が見えず、情報は毎日のように更新され、「今、建てていいのか」という不安が、常に背景にありました。間取りを決めきれず、性能の話に振り回され、予算とのバランスに悩み、一度は「少し待った方がいいのでは」と真剣に話し合ったこともあります。この家は、完成形よりも“迷っていた時間”にこそ意味があるからです。
ご相談に来られたとき、ご家族が抱えていたのは、ごく普通で、でも切実な迷いでした。
・この広さで本当に足りるのか
・今は良くても、10年後・20年後はどうなるのか
・性能を上げるほど、予算が不安になる
・コロナ後の暮らしが想像できない
・「正解」を選ばないといけない気がして、決めきれない
他の会社で同じく家づくりをしていた友達から話を聞くと、「早く決めないと」「皆さんこうしています」そんな言葉にも、少し疲れてしまっていたそうです。迷っているのに、急かされる。それが一番、しんどかったと話していたのを聞いていました。
この計画では、実家の隣に新しく住まいを建てると同時に、これまで暮らしてきた実家のリフォームも行っています。新築だけでも判断が多い中で、既存の家をどう残すか、どこまで直すか、将来どんな距離感で暮らすのか。建物単体ではなく、今と将来を含めた敷地全体と、
家族全体の暮らしを同時に考える必要がありました。2棟をどう分けるか。どうつなげるか。どこまで揃えて、どこを分けるか。だからこそ、この家づくりは一つひとつの判断に、立ち止まる時間が必要だったのです。
私たちが最初にしたことは、答えを出すことではありませんでした。「まだ決めなくて大丈夫です」「この状況で迷うのは、当然です」
そうお伝えし、“決めないという判断”を、設計者側が引き受けました。間取りも、仕様も、素材も、あえて保留にした項目がいくつもあります。なぜ急がせなかったのか。それは、この家が一度決めたら戻れない選択の連続だからです。「決めきれない」のではなく、「ちゃんと考えたい」だけ。そう整理できたところから、判断は少しずつ、前に進み始めました。

この空間に決めたのは、何案も検討したあと、「これ以上、足さなくていい」と家族全員が同じ結論にたどり着いたときでした。
この写真は、「正解を選んだ結果」ではありません。何度も立ち止まり、戻り、細部まで話し合い、それでも前に進んだ時間の結晶です。だからこの家は、他と比べるための家ではなく、「自分たちで選び取った家」になりました。
この家づくりでは、目立たない部分にこそ、時間をかけています。
・廊下の幅を数センチ単位で検討
・収納の奥行きを「入れたい物」から逆算
・触れる場所の素材感は、必ず実物で確認
・将来、掃除やメンテナンスに困らない納まり
派手な仕様はありません。けれど、「あとから効いてくる違い」を、一つひとつ積み重ねました。コロナ禍という不確かな時代だったからこそ、暮らしの基準を、表面的な流行ではなく、自分たちの実感に置いた家づくりです。

目立たせるためではなく、何年も触り続ける場所だからこそ、納まりと素材の境界線を、最後まで確認しました。

収納は、将来のために大きくするのではなく、今の暮らしに合わせて決めました。

新築とリフォーム。別々に考えるのではなく、敷地全体をひとつの暮らしとして整えました。
最後に、新築とリフォーム、2棟の建物が敷地に並んだとき、私たちが大切にしたのは「まとめて整えること」でした。建物を揃えることが目的ではなく、これから先、無理なく続く暮らしになるかどうか。実家のこと、敷地のこと、家族との距離。一つずつ切り分けるのではなく、まとめて考える家づくりもあります。
家づくりに、同じ答えはありません。けれど、同じように納得しながら進むことはできます。焦らなくていい。決めきれなくてもいい。その迷いごと、引き受けます。
不安な時代に、無理に決めなかったことが、この家のいちばんの強さになりました。
焦らず進む家づくりも、確かな選択です。