便利な場所を選ばなかった理由は、ひとつではありません。
「どこで暮らすか」より先に、どう関わりながら暮らしたいかを考えた家です。
便利な場所に住むという選択もありました。新しい分譲地で建てる未来も、確かに現実的でした。それでもこのご家族は、何度も立ち止まり、話し合い、「どこで、どう暮らしたいか」から考え直しました。迷った時間そのものが、この住まいの土台になっています。
お施主様は若いご夫婦です。だからこそ、悩みはとても現実的でした。
・町から離れて、本当に暮らしていけるのか
・雪の多い地域で、日々の生活は大変ではないか
・将来、選択を間違えたと感じることはないか
間取りも、予算も、性能も。正解が分からないまま、時間だけが過ぎていく感覚。「自然が好き」という理由だけで決めてしまうには、
この先の暮らしは長すぎました。だからこそ、簡単に答えを出すことはできなかったのです。
私たちが最初に行ったのは、「早く決めましょう」と背中を押すことではありませんでした。なぜ山間部なのか。なぜこの土地でなければならないのか。そして、どんな暮らしを“自分たちの手で続けたい”のか。一つひとつ、言葉にして確認しました。このご家族が選ばれたのは、すべてを完成させて引き渡す家ではありません。週末に、自分たちの手で少しずつ手を入れ、外構や住まいづくりに参加していくハーフビルドという選択でした。それは、楽な道ではありません。時間も、手間も、覚悟も必要です。だからこそ私たちは、「できる」「できない」を明確に分け、構造・断熱・安全性など家の根幹はプロとして責任を持ち、手を入れる余地は、あらかじめ設計に組み込むという判断を引き受けました。その線引きと判断は、すべて設計者として私たちが行っています。
この地域の家には、暮らしの中で培ってきた建築的工夫が多くあります。雪と共に生きてきた、土地の知恵です。その形を無理に消すのではなく、現代の暮らしに合わせて再構成しました。
・除雪や動線の考え方
・将来、手を加えやすい外部計画
・DIYでも無理の出ない素材と納まり
「昔ながら」でもなく、「流行」でもない。住みながら完成していくことを前提にした家として、この土地に根付く形を整えています。
完成事例とは、完成した瞬間の美しさではなく、暮らしに耐え、関わり続けられるかの証明だと私たちは考えています。

この場所で暮らすと、決めたこと。それが、この家づくりの出発点でした。

間取りを決めたのではなく、この場所での時間の流れを想像しました。

この地域で長く続いてきた住まい方を、今の暮らしに合わせて整えました。

すべてを新しくしない。残すことも、ひとつの設計です。

触れる場所ほど、時間に耐えるつくりを選びました。

自分たちで手を入れると決めたからこそ、安心して暮らせる骨格を、最初につくりました。

この家は、引き渡しで終わりません。暮らしながら、少しずつ完成していきます。
完成した瞬間がゴールではない家もあります。
関わり続けながら、少しずつ暮らしを育てていく。そんな選択も、確かに存在します。